その日の夜。勇太君の家を訪れて、彼のご両親に事情を説明する。彼の母は「ごめんなさい、ごめんなさい」と何度も私に頭を下げ、父は彼を怒鳴っていた。

 私の父はといえば、平日の夜なんてどこかで呑んでいるに決まっていて、私の電話には出なかった。けれど勇太君の家の固定電話からかけた途端、たったワンコールで「はい」と出た。知らぬ番号はビジネス関係かもしれない。父はきっと、そう思ったのだろう。

 勇太君のご両親は、私の自宅まで出向いてくれた。ほろ酔いで帰宅した父に妊娠した事実を話しても、中絶費用ばかりを気にされて、気が滅入る。それでもただひとことだけ──

「乃亜。体は大事にな」

 と、親らしいことを口にしていた。それが本心なのか建前なのか、父にしか知り得ない。勇太君のご両親は、終始平謝りだった。

 マンションの下で三人の背中を見送っていると、勇太君だけ反転し、こちらに向かって駆けてくる。

「どうしたの?忘れ物?」

 私がそう聞くと、彼は少し切れた息を整えながら「少しだけ話せる?」と言った。