「と、図書館で一緒に勉強したいっ」

 図らずとも上擦った声に彼は反応し、頭を上げた。

「なんで?」
「毎回勇太君の家にお邪魔しちゃ悪いしっ」
「なんだそんなの。構わないよ?」

 また流される。彼の部屋に行けば、あの雰囲気に逆らえなくなってしまう。断るなら今しかない。

「家だったら、遊ばないっ」

 目を合わせる勇気まではなかったから、スカートの上に乗せられた自分の拳を見て言った。その態度は、彼の心を抉ってしまう。

「ごめん乃亜。もう絶対にキスマークなんてつけないから。俺のこと嫌いにならないでよ」

 そこだけが問題なんじゃない。私の気持ちが、そもそも中途半端だったんだ。

「ごめん乃亜。ごめんね」

 彼の謝罪に「いいよ」と言えば、また家に誘われてしまうのだろうか。それが怖くて黙っていると、彼は私の首に触れた。

「まだ赤い?見せて」
「だ、だめ、触らないで!」

 パンッと私に叩かれた彼の手が、行き場を失くし宙で止まると、彼も刹那静止した。
 フォローも弁解もできずに、交わる視線。彼の瞳の中、どうして私の方が泣きそうになっているのだ。

「と、とにかく来週は図書館で会おっ。またメールするねっ」

 捨て台詞のようにそれだけを告げて、ガンガンと駆け下りた階段。彼は私の拒絶を、どう捉えただろう。