「あ、やっぱ乃亜だ。と、凛花ちゃん」

 手すりにかけられた手に続いて、彼の笑顔が現れた。凛花はすぐさま立ち上がる。

「ご、ごめん乃亜、先帰るね!勇太君もばいばいっ」

 突然のご本人登場にばつが悪くなったのか、彼女は脱兎の如く消え去った。私はそんな彼女に手を振る余裕もなし。聞かれてはまずい話しかしていない。

 ガチガチに固まった私の横に、腰を下ろした彼は言う。

「ごめん、せっかくの女子会邪魔しちゃったかな。乃亜の声が聞こえたからさ」

 微笑んだ彼を見て、おそらく内容までは聞き取れていないと判断し、胸を撫で下ろす。

「勇太君、まだ下校してなかったんだ」
「うん。体育委員と体育祭の段取りについて話してた」
「そっか。大変だね」
「意外とやること多くて、参ってるかも」

 彼はそう言うと、ことんと私の肩に頭を乗せた。

「あーあ、早く乃亜に癒されたい。なのに今週は忙しいんだよなあ。来週の火曜日、空いてる?」
「うん。空いてると思うけど」
「じゃあ、俺の家に来ない?」

 その瞬間、昨日の陸の泣き顔が、脳を掠めた。