【完結】鍵をかけた君との恋

 握りしめていた小石がするりと落ちる。その手はそのまま、首元に。

「あー、これ?猫に引っ掻かれたのっ」

 平然を装ったつもりだったが、声は手本のように裏返った。

「乃亜んち、猫いねーじゃん」
「ち、違う人の家のっ。猫みたいなやつっ」

 少し間を置いてから、陸はまた聞いた。

「それ……信じた奴いる?」

 ごくんと唾を飲む。陸の冷めた目が、私の喉仏を見ているような気がした。
 

 いらっしゃいませやありがとうございましたなど、扉が開いては時折聞こえる店員の声をしばし耳にして、最後にクシャッとチキンの袋を丸める音がした。

「それ、キスマークじゃねーの?」

 一瞬にして血の気が引く。

「今日の騎馬戦、あ、勝てるわって思って勇太の帽子掴みにいったら、アイツの首にキスマークみたいなのついてんの発見して、思わずバランス崩した」

 動悸がする。呼吸がしづらい。

「そしたら見事に落馬しちった」

 ハアハアと、懸命に酸素を取り入れる。

「ねえ乃亜。そういうことなの?」

 お願い、聞かないで。

「勇太とヤッたの?なあ乃亜、答えろよ」

 耳を塞ぎたくなる現実に、頭がずんと膝に落ちた。