【完結】鍵をかけた君との恋

「美味しかったっ。幸せ!」

 勇太君お勧めケーキは絶品だった。いつまでもフォークを噛み締める私に、彼はとろんとした瞳を向けてくる。

「乃亜、クリームついてる」
「どこ?」

 指で口元を拭って聞くと、彼は「ここ、ここ」とそこに唇をあてがった。

「今日の乃亜、ぶどうよりも甘い……」

 その言葉で、全身が毛羽だっていく。

「ゆ、勇太君っ。勉強は?」
「勉強?やるよ、やる。でもその前に──」

 ひょいと彼に抱えられ、ベッドへふんわり置かれると、角張った彼の手が、順に私を露わにしていく。

 下唇をグッと前歯で噛んだ私は、彼とひとつになるその瞬間の覚悟を決めていたのに、今度は痛みなくするりと受け入れた自分がいて、心底驚愕した。

「あっ」

 首にまたもや勇太君の唇が触れる。
 しまったと後悔をした。やめて欲しいと言いたかった。だけど今だけはこの快楽が全てで、そんな気持ちは遠くへ葬られてしまったんだ。


 ことが終わり、まだ息の整えきれない私を、彼は後ろから抱きしめる。

「乃亜、大丈夫?痛くなかった?」

 優しく頭を撫でながら、聞いてくれる。

「うん。大丈夫」

 彼の顎が、私の肩へちょこんと乗せられた。吐息にくすぐったさを感じれば、我に返る。

「あ、あの勇太君っ。もしかしてさっき、キスマークつけた?」
「あ。つけたかも」

 そう言って、彼は私の髪を掻き分け確かめた。

「ごめん。けっこうガッツリつけちゃってる。まずかったかな、ごめん」

 瞬時にテンションが下がった彼に、どうしてだか私の方が申し訳なくなってしまう。

「い、いいのいいのっ。でも、今度からは見えないとろこにつけて欲しいなぁって」
「見えないところならいいの?」

 私の体をくるんと返し、真正面に来た彼は、つぶらなその瞳をぱちぱちさせた。

「う、うん」

 この返事は本心ではなくて、流れに逆らう勇気がなかっただけ。

「じゃあ、手上げて」

 今度は私を仰向けに、片手をとった彼。脇に近い箇所を愛でられて、思わず滑稽な笑いが抜けていく。
 長く押しあてた唇を離し、そこに浮かび上がる痕を確認すると、彼はずいと顔と顔を近付けた。

「ねえ、乃亜も俺につけてよ」
「え」
「俺は見えるとこがいいから、ここに」

 指でとんとんと指定されたのは、彼の耳のすぐ真下。サイドの髪がかからない、そんな場所。

「俺は乃亜のものっていう、証ね」

 この甘い雰囲気を壊す度胸など持ち合わせていない私は、彼に抱きしめらた腕の中、懸命にそこへ吸いついた。