【完結】鍵をかけた君との恋

 地元の最寄り駅に着く頃、陽は傾いていた。

「乃亜、まだ時間平気?少し喋っていかない?」
「平気だよ。どこでお喋りしよっか」
「俺の家でもいい?今日、両親遅いし」

 束の間、悩んでしまう。
 初めて唇を重ねたあの日から、定番になった彼の部屋でのキス。嫌、というわけではないが、今日はここで別れてもいいかもしれないと思った。

「今日は乃亜に、まだキスできてない」

 けれど手を振るその前に、もどかしそうにそう言われ、頷いてしまう自分がいた。


「あ、電気切れてる」

 玄関の天井を見上げながら、彼はパチパチとスイッチを鳴らす。

「暗くてごめん」
「平気平気。見えるよ」

 靴を脱いだ彼の後ろ、私もスリッパに足を忍ばせる。するとその時。

「え、ゆ、勇太君っ?」

 彼は私を抱きしめた。驚き落としてしまった鞄の中身が、床へと散らばる音がした。

「……どうしたの?」

 そう聞くと、彼は吐息混じりの声で囁く。

「今日のデート、キツかったぁ」
「えぇ、なんで」
「だって乃亜に全然触れられないんだもん。こんなに大好きな子が目の前にいるっていうのにさ」

 愛の告白を、もう一度された気がした。図書館での真っ直ぐな彼の瞳が、頭を過った。

 何も言えずに彼の胸元で縮こまっていると、彼は私を抱きしめたまま、ちょこちょこと歩き出す。

「な、なにこれ。歩きづらいよぉ」
「ははっ。もう少し我慢して」

 そうして彼の部屋へと導かれた。