漫画を読んでいるその間、陸は無言を貫いた。数十分後、私の方から話しかける。

「やばい。早く続きが読みたいんですけど」

 ゲーム中だった陸は、ポーズボタンを押す。

「まだ半年は新刊出ないぞ。続きが読めるのは、中学卒業してからかもなあ」
「遠い〜」
「意外とすぐだよ、そんなの。乃亜は高校どこ行くか決めた?」
「迷ってる」
「どことどこで?」
「違くてっ。行くか行かないかでっ」

 私のその言葉に、陸は思い切り顔を顰めた。

「は?まじかよ、行かないつもり?」
「う〜ん……どうしよっかなあ」

 再度開いた本へ目を落とし始めると、陸の声が歪んだ気がした。

「おい、ちゃんと答えろよ。どうすんの?」

 進学とか、未来とか、将来とか。そういった類の話は鳥肌が立つ。

「まだ決めなくていいじゃんそんなの。今二ターン目読んでるから、静かにしててよ」

 はあっと息をついて、壁にもたれて体育座り。膝の上でページを捲っていると、コントローラーを荒く放った陸が、その本を奪って言った。

「乃亜が高校に行くって言うまで、もう読ませない」

 私の目線でぶらぶらと、本を揺らす。

「か、返してよっ」

 咄嗟に伸ばした手はひょいと彼に容易く避けられ、空を切るだけ。

「だって何すんの。高校行かねーで働くの?お前の今後を言え」

 真剣な瞳を寄越されて、思わずたじろぐ。

「……それは考えてない、けど」
「じゃあ高校行けよ、心配かけんな」

 後ろは壁。ぐいと陸に距離を詰められれば逃げ場はなくなる。

「でも、べつにやりたいこととかないしっ」
「そんなのこれから見つければいいだろっ。高校在学中に将来の夢とか見つかるかもしれねえ。高校行っとけばよかったって、俺は乃亜に後から思って欲しくねえ」

 言い返す言葉を探す。陸を黙らせる、反撃のひとことを。

「高校、行く?」

 これ見よがしに、私の頭上で本を行き交わせる陸。私の性格を熟知した上での行動だ。

「い、行くよ、高校行く!だから返して!」

 がしっと陸の腕を掴んで動きを止めた。途端に不敵な笑みを浮かべた彼は言う。

「返せっていうか、俺のだから」

 二ターン目は、ちっとも頭に入らなかった。