【完結】鍵をかけた君との恋

「乃亜ちゃんっ」

 陸の自宅。真っ先に出迎えてくれたのは、パジャマ姿の楓だった。

「楓ごめんね。こんな時間に」
「全然!十時なんてうち誰も寝てないしっ」
「ありがとう」

 手を洗い、食卓に腰を掛けさせてもらうと、自室から出てきた陸が目に入る。

「ど、ども。お邪魔してます、です」

 どこかぎこちない挨拶をすると、彼は言った。

「歴史日本漫ガタリの最新刊読んだ?」

 陸もまた、彼の母と同じ。私に一切理由(わけ)を聞かない。

「よ、読んでない……発売されたの?」
「今日ゲットした。もう読んだから、貸してやろっか?優しいだろ」

 にししと得意げな陸の顔。この家族といると、心の氷が溶けていく。


「乃亜ちゃんって、今日泊まるの?」

 蕎麦を啜る私に楓が聞いた。

「お蕎麦食べたら帰るよ。明日も学校だし」
「えー、もうこんな時間なんだから泊まっていけばいいのに」
「着替えもないし、悪いよ」
「私のパジャマ貸すから!」

 彼女は私を気にかけてくれているのだろうか。それともただ単に、お泊まり会気分で誘っているのか。どちらにせよ、私が嬉しく思ったことに変わりはない。

 楓のしつこい懇願に、陸の母は私の宿泊を許可した。ただし、父に一報入れることを条件に。