【完結】鍵をかけた君との恋

「ちょっと君。おーい」

 夢か現実か。誰かに肩を揺さぶられて顔を上げる。腕には赤い痕。どれだけ寝ていたのだろう。
 隣に立つは、五十代くらいの男性警察官。

「こんなところで制服のまま寝てちゃダメだよ。親御さんが心配するだろう?」

 店内の時計は九時をさす。一時間も寝てしまっていた。

「も、もう帰りますっ」

 携帯電話をポケットにしまい、席を立とうとすると、彼は「ダメダメ」と首を横に振った。

「交番に来なさい。この時間じゃ、親御さんに引き渡さないと帰してあげられないよ」

 私は黙って彼の後に続いた。


 交番に着いてすぐ。ゆっくりと外した受話器を耳にあて、ボタンを指で押していく。あれだけ喧嘩をしても頼らなければならぬ親という存在。未成年である歯痒さをひしひしと感じていた。

 長いこと呼び出して、ようやく出た父の周りは大層賑やかだった。自分の居場所と迎えが必要だという事実を伝えると、彼の返答はこうだった。

「父さんはもう、奈緒の店で呑んでて今すぐ迎えになんて行けないよ。明日の朝なら行ってやるから、今日は警察でもどこでも泊まりなさい」

 一方的に終了した会話、鳴り響く不通音。
 父の中で家族というものは、ただの紙切れの関係でしかなくて、彼はいつだって彼自身が最優先。そんなことは昔から知っていたはずなのに、どうして期待など寄せてしまったのだろう。迎えにくらい、来るだろうと。

「お父さん、なんだって?」

 受話器を握りしめたままの私の前、警察官は指で通話を切った。

「ちょっと遠いとこにいて、今日中には迎えに来られないそうです……」
「他にあてはあるかい?親戚でも、二十歳を過ぎた兄姉でも」
「……いないです」
「そうかあ。うーん、どうするかなあ……」

 キィーッと背もたれを倒し考える彼。ぽんっとすぐに、手を叩く。

「友達の親でもいいよ。誰か迎えに来てくれそうな人はいるかな?」

 私の頭には、陸の母しか思い浮かばなかった。