「この問題は、Aの気持ちがわかる一文が文章の中に隠れているんだよ。それをまず、見つけ出そう」

 とある放課後。「勉強しよう」と勇太君に誘われて、彼の自宅へと招かれた。

 リアルな人間の気持ちにも疎い私が、物語に登場する人物の気持ちなどわかるわけがない、などと思いつつも、私は大人しくその一文を探すことに勤しんだ。

 彼の部屋は、整頓が行き届いたシンプルな部屋だった。本棚に並ぶ参考書には、付箋が幾つも貼ってある。
 固定だと言われた私のシフトは、塾の都合で変動制になった。彼のオフ日がデートの日。曜日は特に決まっていない。

「乃亜、わかった?」

 隠された一文をなかなか見つけられずにいると、彼に顔を覗かれた。

「わ、わかんない」
「じゃあ一緒に探そっ。隣きて」

 自身の横にクッションを置く彼。私がそれにしずしず座ると、すぐに間は埋められた。

「よし、途中から読んでいくよ」

 こんな私にも丁寧に勉強を教えてくれる勇太君は、優しい人だ。