【完結】鍵をかけた君との恋

 数日後、凛花の自宅前で深呼吸。知らせなしのベルを鳴らせば、彼女の戸惑いはマイク越しに伝わった。

「え。な、何」
「凛花。少し、出てこれる?」

 家で何度も復唱してきた謝罪文。わかり易く丁寧に、きちんと順を追って話そうと決めていた。しかし玄関から出てきた彼女を一目見れば、一番最後の三文字が、最初に口から抜けていく。

「ごめん!」

 出し抜けの大声に、彼女の口があんぐり開いた。

「遊園地の日っ、私、朝に嫌なことあって、凛花に八つ当たりしたっ。どうでもいいなんて少しも思ってない、凛花とずっと仲良くいたい!」
「乃亜、声大きすぎっ。夜だよ」
「ご、ごめん!」

 注意を受けた直後のボリュームも調整できぬ私に、彼女はほんのり少し笑った。

「私も……乃亜に酷いこと言っちゃったね。死んでくれなんて思ってない。撤回する、ごめん」
「うん、わかってるっ」
「いつでも相談乗るからさ、八つ当たりする前に、全部話してよ」
「うんっ!いっぱいいっぱい凛花に聞いてほしいことあるから、今度丸一日ちょうだいっ」
「オーケー」

 準備していた文面とは異なってしまったけれど、彼女との関係が修復できて安堵した。しかしすぐに襲ってくるは、大きな不安。
 陸のくれた「諦めんな」を脳内で反芻させて、勇気を出す。

「あと私……凛花に言わなきゃいけないことが、まだあるの」
「何?」

 蝉が鳴く。あの日みたくなりたくない。いや、絶対にそうさせない。私は彼女を諦めない。

 唾を飲む。

「私、陸のことが好きなの。小学生の時からずっと、陸が好きっ」

 凛花の表情は変わらなかった。けれど瞬きの回数が増えた。彼女は何も発さない。だからまだ、私の番だ。

「恋愛なんて終わりがくるものだと思ってたから……だから陸とはずっと幼馴染でいたいって思ってた。悲しい別れも何もない関係でいたいって。私、逃げてたのっ。本気で恋愛するのを避けてた。でも、でも凛花が陸と付き合ってすごく辛くて、ちゃんと応援出来なくて、そんな自分がすっごく嫌でっ。だから──」

 その先を予想したのか、凛花の眉間に皺が寄る。

「だから私、陸に正直に好きって伝えたっ。そしてそれを、今ここで凛花に正直に言うっ。私、陸と付き合いたいっ」

 はたから見れば、私はただのエゴイストなのだろう。

「でも凛花とは仲良くいたい!私の親友でいてほしい!」

 自分でも、心の底からそう思う。だけどこれが、私の本心なんだ。

 再度出された大声に、彼女は周りを気にしなかった。