「あ、乃亜ちゃんだ!」

 家に帰ると寂しくなる。そんな私を気遣ってくれた陸は、夕ご飯に誘ってくれた。

「乃亜ちゃんいらっしゃい。久しぶりねぇ」

 いつでも温かく迎えてくれる、陸の家族。

「乃亜ちゃん、ちょっと」

 靴もまだ脱ぎきらぬ私を、楓は自身の部屋へ促す手招きをした。その瞬間、膨らむ期待。もしかしたらあの報告をしてくれるのではないかと思ったから。
 私の耳に顔を近付けて、楓は囁いた。

「実はね私、彼氏できたのっ」

 ああ、嬉しくなる。

「ふふっ。もう知ってるよーん」
「え!」

 右から左へ脳を貫くほどの大声に、私は咄嗟に耳を覆った。

「お兄ちゃんが言ったのね!あのばか兄貴、すぐ言いふらすんだから!」

 憤慨する彼女に聞く。

「彼、どんな人?どんな性格?」
「そんなの説明しなくても、直接会えばいいじゃんっ」
「ええっ。だって私、どの立場で会えばいいのか……」

 ぽりぽりとこめかみをなぞる私に、彼女は平然と言ってのける。

「楓の姉ですでいいじゃん。実際そう思ってるし」
「あ、姉……?」
「え!そう思ってるの私だけ!?」

 度肝を抜かれたのは束の間で、これまでの彼女と私を振り返り見れば、いとも簡単に答えは出た。

「私も楓のこと、妹だと思ってるよ」