「陸とは一緒にいたい」

 自分でも不思議なんだ。こんなどん底にいるのに、闇の中にいるのに。陸だけは、陸とだけは。

「陸とは一緒になりたい」

 そう思ってしまう。

 驚いた顔の陸を、私は真っ直ぐ見た。

「陸を信じたい、側にいたい。そう思っちゃう。ねえ、なんでなの?」

 涙が一筋流れていく。彼の瞳も潤んでいた。

「ねえ陸。俺も乃亜の前から消えるよって、俺もどうせすぐいなくなるよって言ってっ。じゃないと私、またひとりぼっちになった時に辛くなるっ」
「乃亜」
「俺なんか信じるなって、そう言ってよ!」
「乃亜っ!」
 
 気付けば口を噤んでいたのは、陸の胸元に引き寄せられたから。陸の匂いがして、陸の鼓動を感じて、胸がいっぱいになる。

 震えた声が、少し上から聞こえてきた。

「俺が、離れられると思うの……?俺が乃亜を、手放せると思う……?」
「……わかんない」
「凛花と付き合ってみて実感した。アイツいい奴だし、一緒にいて楽しいよ。でも乃亜といる時は、嫉妬とか胸の詰まる感じとか、苛ついたり辛い時がいっぱいあるんだよ。お前すぐ泣くし、テンションすぐ変わるし、ご機嫌とるの、ぶっちゃけまじでめんどくせえっ」

 夏より熱い陸の体が、どうしてだか私に安心感を与えてくれた。

「なのに、乃亜の少しの笑顔ですっげー幸せになれんだよ俺。叩かれたってあしらわれたって、馬鹿にされたって。乃亜さえ笑ってりゃいいんだ」

 陸の胸から彼を見上げた。彼の瞳からは、今にも滲んだ私がひと粒落ちてしまいそうだ。

「もうどこにも、行かないでよ……」

 シャボン玉のように、儚い声だった。

「俺もどこにも行かない、乃亜を放さない。そしたら離れることなんかねえよ、一生一緒じゃんかっ。絶対約束する。俺は乃亜をひとりにしない。だからお願い乃亜、どうか……」

 絞り出される、その声。

「どうか俺を、受け入れて……」


 陸の涙に胸を打たれたからじゃない。闇に落ちていくずっと前から、いつか覚悟できる日がきたら必ずこの手を取ろうと、そう決めていたんだ。


「好き」

 ずっと伝えたかったこの愛を、今日初めて素直に言えた。

「私は、陸が大好き」