「乃亜?」

 煩い雨音よりも確かに近くで聞こえたその声に、頭を上げた。

「ゆ、勇太君……」

 目を丸くさせた彼は傘をさし、私の前で呆然と立ち尽くす。

「乃亜、こんなとこで何してんの……?」

 歪んだ彼の顔を見て、即座に体が萎縮する。

「ご、ごめん勇太君っ。私寝坊し──」
「そうじゃなくって!乃亜がたくさん濡れちゃってるじゃん!」

 声を張り上げた彼に対し、私は謝罪を伝えることしかできない。

「ごめん……寝坊しちゃって急いで来たんだけど、なんかたくさん濡れちゃったし、もう、勇太君もいないかもしれないと思って……」
「こんなになってまでっ」

 彼はそう言うと、私の目線まで腰を折る。

「こんなずぶ濡れになってまで、来てくれたの?」

 そして、指で私の頬を拭った。

「一瞬、泣いてるのかと思ったよ……」

 詫しげな顔。何故、彼の方が私よりも申し訳なさそうなのだろう。

「すっぽかしてごめんね、勇太君」

 頭を下げる私に、彼は「とりあえず中に入ろう」と言って手を引いた。