「乃亜ー。これいる?」

 クレーンゲーム機の箱の前、立ち止まる陸。中を覗くと、そこには名も知れぬ魚のぬいぐるみ。彼はそれを指さした。

「乃亜に似てるから、とってやろうか?なんか簡単そうだし」
「いらないし、似てない」
「そうか?ボーッとしてる感じとか、そっくりじゃん」

 私の意などお構いなしに、陸はコインを投入した。

「ここで止めて、と……」

 そんなものいらない、そう思っているのに。

「ここでどうだっ。勝負!」

 どうして応援してしまうのだろう。

 アームからするっと抜け落ちたぬいぐるみに、彼は「あーあ」と嘆息してから、私を見る。

「まじで乃亜じゃん、これ」
「どこがっ」
「捕まえられそうなのに、逃げてくとこ」

 悪戯な目だったけれど、それは本音だと思った。

 結局陸は、三回チャレンジして諦めた。


「あの魚悔しいなあ。掴めるのに落ちんだよ、途中で絶対」

 帰り道。未練を残した陸が嘆く。

「ぼけっとしてるのに、逃げるのがうまい」

 私はふふっと笑って言った。

「あの魚、一体なんなの?名前あるの?何かのキャラクター?」
「わかんねえ、見たことないよな。きっとアレだ。ノアギョだ、ノアギョ」
「やめて……」

 ボスッと一発、陸の腹に入れる拳。

「いってー」
「魚と一緒にするなっ」

 あの魚が逃げなかったら、思い出の品ができたのに。