息を切らせて着いた先。そこはつい先ほど別れを告げた、学校だった。
「校庭から入ろうぜ」
「え、ダメだよそんなの。絶対怒られるっ」
「校舎に入るわけじゃないんだからバレねえよ。校庭の端っこにお邪魔するくらい、この暗さじゃ誰も気付かないだろ」
「えー、大丈夫かなあ」
そう言ったけど、ワクワクしている。
穴の開いたフェンスを見つけた陸は、人ひとりが通れるよう、力づくでそこを広げた。すんなり抜けた陸に続き、私も彼の腕を借りて潜って抜ける。
「木の下なら陰になってバレないっしょ」
陸が私を誘導したのは校庭の隅。外灯は届かない、とても暗い場所だった。
「乃亜、ここ座って」
植木の僅かな段差に腰を下ろし、彼は自身の隣を手で叩く。飛び出た枝を避けて座れば、距離は自然と近くなった。
校舎を眺め、陸は言う。
「暗くてあんまり見えないな」
低学年の頃怖かった給食室の殺菌灯が、今この箱の中では一番明るい。
「こんなに黒い学校見るの、初めてだよ」
クスクス笑って、落ち着いて、また校舎を見る。なんだか目が離せない。それは隣の陸も、同じようだった。
「俺達、ついさっきここで卒業式したんだよなあ。なんか、もうずいぶん昔みたいだな」
「私もそれ、すごく感じる」
「乃亜泣いた?卒業式」
「泣いたよお。色々思い出して……」
「ははっ。乃亜は涙腺弱いもんな」
「陸は泣かなかったの?」
「俺?全然」
「冷たい人っ」
優しく吹く風が気持ちいい。さわさわと、木々の揺れる音を運ぶ。
「入学したての時だっけ。乃亜がド派手に校庭でコケたの」
「それ、体育の授業中のやつ?やめてよ、そんな思い出覚えてなくていいし」
「俺、教室の窓からその瞬間見ちゃってさ。授業中に笑い止まらなくなって、先生に超怒られたんだぞ」
「知らないよそんなのっ。見た陸が悪い」
「おもしろかったなあ」
「そんなこと言うなら、陸も恥ずかしい思い出あるでしょ。二年の音楽祭の時、ひとりで歌詞飛ばして歌っちゃって、全然周りと合ってなかったやつ」
「げ!お前よくわかったな。あれは誰にもバレていないだろうと思っていたのに……」
「あからさまに焦った顔してたもん」
「お互いよく見てたんだな、相手のこと」
陸とする思い出話が楽しくて、永遠にでも、ここで喋っていられる気がした。
「校庭から入ろうぜ」
「え、ダメだよそんなの。絶対怒られるっ」
「校舎に入るわけじゃないんだからバレねえよ。校庭の端っこにお邪魔するくらい、この暗さじゃ誰も気付かないだろ」
「えー、大丈夫かなあ」
そう言ったけど、ワクワクしている。
穴の開いたフェンスを見つけた陸は、人ひとりが通れるよう、力づくでそこを広げた。すんなり抜けた陸に続き、私も彼の腕を借りて潜って抜ける。
「木の下なら陰になってバレないっしょ」
陸が私を誘導したのは校庭の隅。外灯は届かない、とても暗い場所だった。
「乃亜、ここ座って」
植木の僅かな段差に腰を下ろし、彼は自身の隣を手で叩く。飛び出た枝を避けて座れば、距離は自然と近くなった。
校舎を眺め、陸は言う。
「暗くてあんまり見えないな」
低学年の頃怖かった給食室の殺菌灯が、今この箱の中では一番明るい。
「こんなに黒い学校見るの、初めてだよ」
クスクス笑って、落ち着いて、また校舎を見る。なんだか目が離せない。それは隣の陸も、同じようだった。
「俺達、ついさっきここで卒業式したんだよなあ。なんか、もうずいぶん昔みたいだな」
「私もそれ、すごく感じる」
「乃亜泣いた?卒業式」
「泣いたよお。色々思い出して……」
「ははっ。乃亜は涙腺弱いもんな」
「陸は泣かなかったの?」
「俺?全然」
「冷たい人っ」
優しく吹く風が気持ちいい。さわさわと、木々の揺れる音を運ぶ。
「入学したての時だっけ。乃亜がド派手に校庭でコケたの」
「それ、体育の授業中のやつ?やめてよ、そんな思い出覚えてなくていいし」
「俺、教室の窓からその瞬間見ちゃってさ。授業中に笑い止まらなくなって、先生に超怒られたんだぞ」
「知らないよそんなのっ。見た陸が悪い」
「おもしろかったなあ」
「そんなこと言うなら、陸も恥ずかしい思い出あるでしょ。二年の音楽祭の時、ひとりで歌詞飛ばして歌っちゃって、全然周りと合ってなかったやつ」
「げ!お前よくわかったな。あれは誰にもバレていないだろうと思っていたのに……」
「あからさまに焦った顔してたもん」
「お互いよく見てたんだな、相手のこと」
陸とする思い出話が楽しくて、永遠にでも、ここで喋っていられる気がした。



