「撮ろうよ」

 しゃがんだまま、器用に隣へ来た陸は、携帯電話をカメラのモードへ切り替えた。

「え、今?やだやだっ」
「撮ろうって言ったの乃亜だろ?」
「だってもう、制服じゃないしっ」
「いいから、もっとこっち来て」

 陸の腕が、私の肩に回される。思えばツーショットの写真なんて、小学校入学式以来かもしれない。

「乃亜笑えー」

 画面に写る陸と私。なんだか照れ臭い。


「なんかお前ぎこちないけど、まいっか」

 一枚撮り終え、ふたりで見入る。望んだ制服姿ではないけれど、夜の中くっつきながら撮影したこの写真は、恋人同士のようだった。

「よしっ。じゃあ行くかあ」

 伸びをしながら立った陸。ぽかんとする私を見下ろして、白い歯を見せてくる。

「行くってどこに?」
「卒業の日の思い出作り」
「もう卒業したじゃん」
「ばーか。家に帰るまでが卒業式だ」
「もう、一回帰ったじゃん」

 陸は「うるさい」と口を尖らせて、私の手をとって起こす。そしてそのまま走り出した。

「ちょ、どこに行くの!」
「いいからっ」

 繋がった手と陸の背中。私はそのふたつを追いかけた。