その日は朝からどんどこと、心臓が太鼓のように打っていた。
午前の授業を終えた勇太君と私は、お昼がてら、あのリゾートカフェを訪れた。
「私これ」
「じゃあ、俺はこれ」
食事が運ばれてくる時間すら長く感じるこのムードを、彼と共有するのは何度目だろう。
この五ヶ月間、たくさんの思い出がある。色濃すぎて語るには、言葉が足りないくらいだ。
「乃亜」
普段と変わらぬ彼の声に、息を飲んだ。
「別れよう、俺達」
もう三度目にもなる別れ話。過去の二回と違うのは、彼が微笑んでいるということだ。
「今まで乃亜を、無理に繋いでごめん。こんなんじゃ、乃亜が先に進めないよね」
切ない、歯痒い、悲しい。そんな感情全てを仕舞い込んだ笑顔。
「これは俺が招いた結果だから、乃亜は何も気にしないでね。乃亜には色んな気持ちをもらったよ、本当にありがとう。まだ好きかって言われたら好きだけど、でも今日でこの関係は終わりにしよう。ずっと足掻いてごめん。苦しかったよね」
苦しめたのは、私の方だ。期待させて、裏切って、手を掴んだり払ったり。だけど全部、彼は受け止めてくれた。そして最後となる今日ですら、私が前へ進めるよう背中を押してくれている。
「乃亜?」
泣かないと決めた。彼の前で泣くのは卑怯だと思った。だから私は、精一杯口角を上げて言う。
「勇太君は、情けない男なんかじゃないからね」
「え?」
「優しくて、賢くて。人を一途に愛せる格好いい男性だからね」
瞬間、あの夏を思い出させたのは、爽やかな彼の笑顔。
「今までありがとう、勇太君」
午前の授業を終えた勇太君と私は、お昼がてら、あのリゾートカフェを訪れた。
「私これ」
「じゃあ、俺はこれ」
食事が運ばれてくる時間すら長く感じるこのムードを、彼と共有するのは何度目だろう。
この五ヶ月間、たくさんの思い出がある。色濃すぎて語るには、言葉が足りないくらいだ。
「乃亜」
普段と変わらぬ彼の声に、息を飲んだ。
「別れよう、俺達」
もう三度目にもなる別れ話。過去の二回と違うのは、彼が微笑んでいるということだ。
「今まで乃亜を、無理に繋いでごめん。こんなんじゃ、乃亜が先に進めないよね」
切ない、歯痒い、悲しい。そんな感情全てを仕舞い込んだ笑顔。
「これは俺が招いた結果だから、乃亜は何も気にしないでね。乃亜には色んな気持ちをもらったよ、本当にありがとう。まだ好きかって言われたら好きだけど、でも今日でこの関係は終わりにしよう。ずっと足掻いてごめん。苦しかったよね」
苦しめたのは、私の方だ。期待させて、裏切って、手を掴んだり払ったり。だけど全部、彼は受け止めてくれた。そして最後となる今日ですら、私が前へ進めるよう背中を押してくれている。
「乃亜?」
泣かないと決めた。彼の前で泣くのは卑怯だと思った。だから私は、精一杯口角を上げて言う。
「勇太君は、情けない男なんかじゃないからね」
「え?」
「優しくて、賢くて。人を一途に愛せる格好いい男性だからね」
瞬間、あの夏を思い出させたのは、爽やかな彼の笑顔。
「今までありがとう、勇太君」



