【完結】鍵をかけた君との恋

「そーいや、勇太は?」

 神社帰り、いつものコンビニ。定位置に座る陸はチキン、私はパンを頬張った。

「え?合格したよ」
「そうじゃなくて。今度こそちゃんと別れるって言えんのかよっていう話」
「あー。そっち」

 途端に向けられる、冷たい視線。

「い、言うよ。これ以上は申し訳ないし」
「ほんとか?流されんなよ?」
「言う言う!」

 陸のこの瞳に、今度こそ嘘をついてはいけない。けれども、パンを運ぶ手は止まった。

「乃亜、不安?」

 そんな私に陸は聞いた。

「俺がまた、告りそうで」

 どこか奇異な、含み笑い。
 私はビターに笑って、髪に指を差し込んだ。
 

「今日はいいよ。送らなくて」

 帰り道の交差点。自宅を通り過ぎようとした陸に、私は言った。

「おばさん、もう仕事から帰ってきてる時間でしょ?早く合格祝いのご飯食べてあげて」

 私の家には、きっと何もないだろう。合格発表の日にちも聞かれてはいない。

「じゃあまた明日、学校で」

 複雑な顔をしていた陸だけど、信号が変わると共に、背を向け歩み出した。私はそれを刹那見て、足を進める。

 今日は合格という人生初めてのことがあって、御礼参りをして、未来の約束をした。だからきっと、家に帰れば滅入るのだろう。このギャップ、この温度差に。これはべつに、驚くことではない。今までずっとそうだった。父が私の人生に、一気一憂することはない。


「おいっ」

 点滅した青信号が、赤に変わった時だった。肩を掴まれて、振り返る。

「やっぱ送らせてっ」

 私の背中だけで、陸はきっと全てを悟った。


「ただいま……」

 家にはやはり、誰もいない。下唇を噛んだ私に届く、一通のメール。

『乃亜、合格おめでとう!明日学校が終わったら会える?今日は家族水入らずのお祝い、楽しんでね』

 邪気のない勇太君のメールが、私の心を深く抉った。