「うっわ!乃亜のクマやっば!」

 自転車で私を追い抜かそうとした凛花が、私の顔を目するやいなや、急ブレーキをかけて止まる。
 今日から新学期。高校受験の入試日は、もうすぐそこまで迫っていた。

「昨日も、三時まで勉強してたから……」
「三時って夜中の!?超ヤバイじゃん!」
「そろそろ追い込まないと、ほんと落ちる……」
「もう今月だもんね。緊張するねっ」

 年が明けてからというもの、寝不足の日々を送っていた。


「うっす……」

 気怠そうな声に後ろを向くと、その声の持ち主にも青いクマ。

「陸、ねっむそー」
「うん。めちゃんこ眠い」

 私達ふたりの欠伸を見ながら、凛花が言う。

「駆け込みタイプだね、あんた達っ」

 駆け込めるかどうなのかも、不安な毎日だ。

 自転車から降りた彼女は、陸の隣でカラカラひいた。

「陸、受験の日一緒に行こうよ。陸も妙海でしょ?」
「ん?ああ」
「当日ひとりぼっちは嫌だし、陸と同じ学校でよかったあ」
「凛花はひとりでも圧があるから大丈夫」
「は?それどういう意味っ。てか当日、何時にする?」

 ふたりのその会話に入っていけぬ私は、ただそれを、耳にしていた。