本当に寂しいのは歩那だ。
あの子が自分と同じ辛さを味あわないように、母として俯かずに進まなければ。

ずっと泣くことなどなかったのに、どうも最近涙もろい。
昴に甘えるほど、自分が弱くなっていく感じがした。

「あたしはね、何が正解とかはないと思うから、花蓮ちゃんが決めたことは否定出来ないし、家柄で生涯の相手を決められちゃう世界はわかんないんだけどさ。……でもね、これだけは約束して欲しいの!」

山根は身を乗り出し花蓮の手を両手で包んだ。

「離れるにしても、嘘は駄目よ⁉」

はっと息を飲んだ。

「あんなに一生懸命気持ちを伝えてくれている人に、適当に誤魔化して別れるなんてしちゃ駄目。全部を話して、納得させてあげなくちゃ。いくら口外禁止の制約があったとしても、あたしに話せたんだから出来るでしょ?」

「言っていいんでしょうか。だって、もし彼の会社に迷惑がかかったら……母は非道な人なんです。気に入らないことがあれば、すぐに切り捨ててしまいます」

「そんなの……今は考えなくていいのよ。会社のことはよくわからないけれど、彼に対して誠実であらなきゃって事だけはわかるの!」

「昴さんにだけは……?」

「そうよ! だって彼が一番大事なんでしょ? 母親の脅しに負けて、彼を蔑ろにするのは違うと思うわ。そうだ! 彼の会社になにかあったら、あたしがお友達に桜杜百貨店でたくさん買い物するように声かけてあげる!」

山根の強引な励ましに花蓮はくすりと笑い、こぼれそうになっていた涙を拭った。

「あは……そっか。そうですね」

「そうよ。彼だって仕事出来る人なんでしょ。若いうちから会社を束ねていて……凄い人じゃない。きっと、やられっぱなしじゃないわよ」

根拠のない話しではあるが、それでも大丈夫という言葉に救われた。

「……彼はまだ、花蓮ちゃんが他の人を好きだと勘違いしたままなんでしょ? それでも告白してくれて、さらには血のつながりのない子供も愛してくれている。そんな男、なかなかいないわよ。初恋の人なんでしょ? 素敵よね。たとえ別れても無理にわすれたり封印するんじゃなくて、ふと思い出したとき、大好きだったなって、一途だった自分を誇りに思いたいじゃない」

「はい……」

山根の言葉に胸が熱くなる。
別れるからこそ、誠実であるべきだ。

お互いのためにも、わだかまりを残さないようにしよう。

「ありがとうございます。わたし、昴さんにきちんと話します」

そう覚悟を決めただけで、心臓が苦しくなる。緊張でどうにかなりそうだった。