目頭が熱くなる。

「彼が花蓮ちゃんのこと想ってるの、端から見ても伝わってきてて、そう遠くない時期に結婚するんだと思ってたけど、難しいの?」

「昴さんは、お互いが学生の頃から婚約者だったんです。歩那は実は姉の子で、あの子を引き取るためには、家を出て彼との婚約を解消するのが条件で……引き取ると同時に婚約は解消していたんですけど……」

歩那の事を、誰かに話すのは初めてだった。

「ちょ、ちょっと待って!」

神妙に聞いていた山根は、ずいと身を乗り出した。

「ひとことに情報量多過ぎよ……その話、休憩時間だけじゃ足りないわよね?!」

時計を見て、あと数分しかないことに気がつく。

「そうですね……足りないかも……」

「詳しく聞きたいわ。お昼休憩、一緒に入りましょう!」

鼻息荒いのは気のせいだろうか。
昼のドラマに芸能スクープ、さらには恋バナが大好きな山根は興奮気味だった。

なんにせよ、誰かに聞いて貰えるのはありがたい。
ひとりで抱えるには限界だった。
毎日、昴への好きが募ってゆく。

一緒に暮らして、新しい一面を知る度にさらに好きになっていた。

毎朝、同じ家に彼がいて、おはようと言われるだけで一日をがんばれる。
仕事が終わってから昴の笑顔は、疲れを吹き飛ばしてくれた。
一日何が合ったかを話しながら、一緒に食事をするのが楽しくて堪らない。

寝る前のおやすみのキスは、心を穏やかにしてくれる。
これで、どうやって離れようというのだろう。

甘い蜜を吸ってしまったら、ひとりに戻るのは難しい。この先、昴なしでどうやって生きていけば良いのかわからない。
山根からは働き方も子育ても家事についてもたくさん助言を貰っていて、頼れる母のような存在だ。あっけらかんとした彼女の明るさに救われていた。

過去を話すことは、甘えになるのかな。
そんなこともわからない。
山根ならば、しっかりしなさいよと、背中を叩いてくれる気がした。