「あ、あの、えっと……」

こういうときはどう答えればいいのだろう。

「花蓮……キス、したい」

昴は体勢をかえると、耳元をさわさわと唇で擽った。
頭のてっぺんからお尻まで電気が走り「あっ」と声が出る。

「す、昴さん……」

「――――だめ?」

昴は首元を啄みながら甘く囁いた。
上目遣いの瞳に誘われる。

「駄目じゃないけど……駄目です……」

昴の胸を押して距離をとる。

「ふ、なんだそれ……難しいな」

昴は眉を下げて笑った。
嬉しいけど、駄目。

(許されないんじゃないかな)

これまでも何度も軽いキスを繰り返したけれど、曖昧な気持ちのまま応えるのはとても失礼な気がしていた。
別れようと思っているなら、なおさら。

「君の心に住むのは俺ではない、違う男だ。でも、花蓮が、俺との関係をたくさん悩んでいるのわかってるよ。それって、少しは俺の存在を赦してくれてるってことだ。――――違う?」

(違わない。嬉しくて、だけど困る)

問いかけは花蓮を追いつめた。ぎゅっと目を瞑る。
じくじくとした気持ちを、どうやって説明したらいいのかわからない。
今日の昴はいつもとどことなく雰囲気が違った。

眼差しをほどかないまま、物欲しそうな指を花蓮の唇に触れさせる。

「俺のことだけを考えてみて」

「昴さん……」

「難しいこと全部抜きにして、俺への気持ちだけを聞かせて。うぬぼれじゃなかったら、花蓮は俺をもう一度……」

言いながら唇が迫った。
唇は触れる寸前で思い留まる。

しかし、早く早くと言わんばかりに、何度も掠める。それはチリチリと電気を帯びるような感触だった。

ーーーーこんなにも愛されていた。

答えてしまったら、また彼を裏切ることにならないかな。
そんな恐怖もあったが、もう隠しておくことはできそうにない。

胸を焦がすような思いが溢れて、髪の先まで細胞全部が好きだと叫んでいた。
だまっているなんて、無理だ。

「好きです……本当は、ずっと……あなただけを……」

特大の秘密を吐き出した気分だ。
告白は涙にまみれ、嗚咽まじりになった。

昴は何も言わずに顔を綻ばせると、ゆっくりと唇を近づける。
触れた瞬間、ビクリと体が揺れた。

昴はそれを大丈夫だとでもいうように、背中をさする。
繰り返すキスの間、昴は腰を抱き、何度も髪を撫でた。

ゆっくりと触れる行為はとても優しくて、強ばりも徐々にほどける。
触れたところすべてから、昴が愛おしいと思ってくれている気持ちが流れ込んできた。

その行為が深くなるのにそう時間はかからなかった。
下唇を甘噛みされたと思ったら、あっというまに互いの舌を絡ませる。
花蓮は夢中で応えた。