「今までの働き方が異常だったんですよ。24時間体制のコンビニエンスストアのように働いていたじゃないですか。残業の貯金はたっぷりあります。少しくらい休んでよも文句は言われませんよ」

恨みがこもった物言いに、そういえば但馬も大変だったなと思いだした。

自分も大変であったが、副社長秘書という立場の但馬にもかなり無理をさせていた。秘書を二人にすれば良かったかも知れないが、但馬の仕事ぶりを味わってしまうと他の者では物足りなくて、つい但馬ばかりに頼ってしまう。結果、無茶振りばかりをして連れ回していた。

目指していたのは、花蓮が大学を卒業するまでに、新事業の展開と利益率の大幅なアップだ。
時間があまりにもなく無謀とも言える試みだったが、卒業と同時に結婚をしたくて、何が何でもやり遂げるつもりで動いていた。

早間との事業実績は数年横ばいで、あのまま何もしなければ右肩下がりとなっていた。そうともなれば、早々に手を切られていたはずだ。

格下である桜杜の息子が花蓮と婚約関係にあったのは、提携事業があってこそ。桜杜に利益があると見込めたからだ。
切られる前に手を打たなくては。

桜杜からほかの企業への鞍替えも噂され、早間を納得させる力を早急に手に入れなければならなかった。
但馬は不満を溢しつつも、野心には賛同し一緒に頑張ってくれていた。

「なんですか?」

じっと但馬を見つめていたら、不穏だと感じたのか顔を顰めて後ろに身を引いた。

「いや、そうだな。よく頑張ってくれたよ。但馬にも休息が必要だよな。よし、会議もないし、今日も早めに帰らせて貰おう」

退社後の仕事のフォローだけ整えておこうと、次の決裁書を閉じてスケジュールを開いた。
但馬は奇妙な顔をしている。

「なんだよ。今度は何?」

「……頑固でも困るし、素直でも気持ちが悪いですね」

胡散臭さげな視線を送られて、「素直じゃないのはお互い様だ」と言い返した。

人生の先輩――――というとなんだか癪ではあるが、結婚と子育て経験のある但馬の助言は聞いておこう。
それから一刻ほど仕事をし、すぐに退社した。