「!」

ほっぺただと思っていたからびくりと体が跳ねた。

「すば……」

「しー。取り消しは受け付けないよ」

後頭部をしっかりとホールドされ、逃げ場を失った。

(ち、違う、勘違いっ……!)

ふわりふわりと、優しく啄む。
心臓が破裂しそうな程緊張していて、彼の袖を掴む手が震えた。
なんとか伝えようと口を開くと、昴は隙を突いたように行為を深くする。

「ふ、あっ」

砕けた腰を、昴が支えた。

「好きだよ花蓮。ずっとこうしたかった」

切ない吐息とともに吐かれた告白は、花蓮の鼓膜を震わせた。
優しく。力強く。何度も繰り返す。

たまに触れる舌先が全身を痺れさせ、キスに、溺れるかと思うほど呼吸がままならない。
角度を変える度に好きだと囁かれると、花蓮も愛していると、叫びたくなった。

(好き……好き……)

溶けて交ざりあうんじゃないかと思うほどの深い行為を、背中を仰け反らせて必死に受け止めた。

興奮した昴の手が背中を弄った時、朦朧としていた意識をはっとさせ気づいて欲しいアピールで腕を叩いた。

「す、ばるさんっ……」

息も絶え絶えに呼ぶと、昴はやっと離してくれる。

「も、だめです」

「ごめん。つい」

昴はぺろりと自分の唇を舐める。
髪をかき混ぜて大きなため息をつく。

昴は気持ちを入れ替えると、リビングに視線を移した。
花蓮もつられ、涙目のまま同じ方向を見ると、歩那は子供向け番組の朝の体操を夢中でやっていた。
見られていなかったとほっとする。

途端に意識が現実に戻った。

(朝から何してるんだろう)

「ほんとごめん。花蓮が可愛すぎて、我を忘れてがっついた。ああ、もっとしていたかったな」

これ以上されたら、腰が抜けて仕事に行けなくなる。
気持ちが顔に出ていたようで、昴は苦笑した。

「今はもうしないよ。また、夜にね」

「え!」

昴はの目が妖しく光ったのは気のせいだろうか。
まるで狼のようで、食われてしまいそうな気分になった。

昴は気を遣ってくれてか、空いていた部屋を花蓮の部屋にしてくれている。
といっても物はなく、ベッドとクローゼットに洋服があるだけだ。
ベッドは昴が花蓮用にと買ってくれて、クイーンサイズだ。シングル布団がスタンダードだったので、久しぶりのベッドはとても広く感じた。

何れは一緒に寝ようとのお誘い付きだったことは、今は考えないでおく。

ベビーベッドも最初は同じ部屋にあったのだが、添い寝に慣れてしまった歩那はベッドを嫌がった。
今はお昼寝用として活用すべく、リビングに移動させている。

優しさを貰うだけもらって、何も返さない女なんて可愛くないよね。
彼の愛情はじくじくと胸を痛めた。