「どうかした?」

昴は付いてきて、背中にくっついた。
後ろから伸びてきた手に、洗い物を止められる。
昴は水を止めると、くるりと花蓮の向きを変えた。

「な、なにがですか」

「面白くなさそうな顔してる」

「気のせいですよ」

「何が嫌だった? 歩那に触れすぎたかな? ごめん。調子に乗った。俺は他人で歩那は女の子だし……次からは気をつけるよ」

昴の思考があらぬ方向に向かいそうで、慌てて否定する。

「違います! わたしの問題なので、気にしないでくださいっ」

歩那と仲良くしてくれるのは本当に嬉しい。
まるで本当の自分の子供のように可愛がってくれて、文句などあるはずがない。

「じゃあ、どうしたの? ちゃんと教えてよ。気持ちがすれ違うのは嫌だ。悪い所があったら直すから言ってほしい」

真摯な態度に余計に申し訳なくなる。

花蓮の頭はどんどん角度を下げた。このまま床にめり込ませたいくらい気まずい。
まさか子供より自分を構って欲しくて拗ねました、だなんて言えない。

でも、今みたいな、悲しい勘違いはしないでほしい。
なんと言えば納得してくれるだろう。

「ねぇ、花蓮?」

昴は首を傾けながら顔を覗き込んだ。
間近に昴の唇が迫り、忙しなく彷徨わせる。歩那とたくさんキスをしていたせいで、少し赤みが増していた。

(き、キス……)

また顔が熱くなる。
暫く花蓮を眺めていた昴は呟いた。

「……もしかして……妬いた?」

熱くなっていた顔は瞬時に沸騰した。

「まさか! べつにキスなんて羨ましくないです!」

食い付くように言い返すと、昴は驚いて固まった。
花蓮ははっと口を覆う。

しまったと思ったが後の祭りだ。
せっかく化粧をしたのに、だらだらと汗が噴き出た。

「そっか……なんだ……」

昴の顔がにへらと緩んだ。

「や、あの、違いますからね?! べつにやきもちなんかじゃ……!」

「駄目だよ。もう聞いちゃったもんね」

昴が口を覆っていた手を剥がした。