フライパンの中で、じゅうじゅうと焦げてゆく目玉焼きをぼーっと眺めていた。

「花蓮、俺のは半熟だからね?」

はっと視線をあげると、リビングで歩那のお世話をしていた昴がこちらを見ていた。

「もちろんです!」

危ない。焼きすぎるところだった。
あわててコンロの火を止める。
換気扇を強にすると手早くお皿に乗せる。皿には先にレタスとハムが盛り付けてあった。

事件から二週間。

昴は警察との手続きも、アパートは引き払いもさっと終えてくれ、精神的にもかなり助けになってくれた。
花蓮は結局、昴のマンションで同居人としての生活を続けている。

あのアパートに帰りたいわけではないが、甘えてばかりの状況はよくない。
せめて家賃を少しでも……と思ったが、花蓮の給料では雀の涙だ。

昴の部屋は一等地にある高層マンションの最上階。
いくら払うと言っても、花蓮の給料では管理費にもならないのはわかっていた。

それともうひとつ、戸惑っていることがある。
あの告白の日から、昴の態度ががらりと変わったことだ。

「ぼーっとするなよ。昨日も黄身をぽくぽくにしちゃったじゃないか」

味噌汁を作っていると、うしろから抱きしめられ「ひゃあ」と声をあげた。

「ちょっと昴さんっ。危ないですからやめてください」

「そうだよ。危ないから動いちゃだめだよ」

昴は腰を抱き寄せ密着した。

「なんか論点違う。ずるい」

「ずるくないよ……嫌ならやめる。嫌じゃないだろ?」

昴は首筋を鼻先でなぞり、軽く唇をふれさせる。
吐息がかかり、甘く粟立った。

「あっ、もうっちょっと……」

嫌ではないけれど恥ずかしい。

「くすぐったいですから」

腕の怪我も治ったので、せめて料理くらいはしなくてはと朝食を作るようになった。
洗濯も掃除もハウスキーパーがやるので花蓮の出番がない。

そのスタイルは確かに楽だし懐かしくもあるが、自分でやることを覚えた今では人にやらせるのは体がむずむずとした。
それにすっかり節約癖がついていて、自分でできることにお金を使うのはもったいないとさえ思う。それを告げたら昴はなぜかうれしそうに笑っていたが、

「花蓮は、今は歩那がいるのだから、甘えられるところは甘えていいと思うよ。それに急にハウスキーパーをクビにするのは酷だから」

と言われて、それもそうかと納得した。
そんなわけで、料理だけが花蓮の担当となっている。