ゆかりが遺した子供を不幸にしたくない。

酷い親だと詰りたいのに、声が震えてできなかった。

『わ、わたしが……育てます。迷惑はかけません』

それだけを繰り返し告げる。

『馬鹿なことを言うな! お前まで……っ』

『いいんじゃないですか』

香が勲の声を遮る。

『子供を引き取って育ててもらいましょう。そのかわり、今後二度と早間の敷居をまたぐことは禁じます。桜杜との婚約も解消。昴さんに会うことも、この話を他言することも許しません』

(昴さん……!)

昴の名前にぴくりと反応してしまう。

(昴さんと、二度と会えなくなる……?)

それまでの勢いがみる間に消沈し、体が震え出した。

『早間の家を捨てるんだから、当然でしょう?』

香は花蓮の様子を見て、くすりと笑った。

『昴さんと結婚したかったら、あの子は諦めることね』

昴は花蓮の唯一の希望。
辛い毎日を支えてくれたのは、彼の優しさだった。

少しでも傍にいたくて、ずっとずっと婚約という名目で縛っていたけれど。

ポジティブに考えれば、――――彼を、解放してあげられるのだ。

そう考えれば、どちらかを取るかなんて決まっていた。