アパートの状態は散々だった。
言葉にならない怒りが立ちこめる。

リビングの窓は割られ、棚や収納の引き出しはだらしなく開きっぱなし。
部屋の荷物は全部ひっくり返って、服が散らかっていた。

花蓮の顔は真っ青だ。
付いてきて良かった。
こんな現場を、ひとりで見させる嵌めにならなくてよかった。

「じゃあ、早間さんは一週間ほどはこちらを留守にしていたんですね」

警察官がふたり来て、写真を撮ったり、指紋を採取したりしている。

「ええ」

花蓮がいくつかの質問に答えると、次は昴に移った。

「あなたは? ご夫婦じゃないんですね?」

先の質問で、花蓮が子どもと二人暮らしと答えたので家族構成を疑問に思ったのだろう。

「僕は彼女とは昔からの知り合いです。家族ぐるみで付き合いがあったので色々親しいんですよ」

一緒にいる状況をかいつまんで説明すると、警察官に誘導され少し離れた場所へ移動する。
花蓮はその場に残された。
彼女をひとりにするのは心配で、視界にいれながら話した。
不安そうに歩那を抱きしめている。

「では、隣人とのトラブルでしばらくこちらを留守にしていたということですね」

「ええ」

「それ以前は特に接触はなしと」

警察官は話ながら書類に記録を書き込んでいく。

「そう聞いてます。でも、子供の夜泣きで迷惑をかけたことがあったかもとは話してました」

花蓮に直接聞いたほうが話が早いのではないかと、疑問に思いながら答える。
警察官は調書を書いていた手を止め、ペンで頭をかいた。

「お部屋をご覧になったかと思いますが、ちょっとこれはね、よく調べないとで確定ではないのですが……」

歯切れが悪い。
言いづらいことなのかと思っていると、警察官は声を潜めた。

「タンスが全部開けられ、服が散乱していたでしょう。服は鋭利な物で引き裂かれた形跡があるものが、いくつか発見されています。その中で……どうもね、下着類だけがない様に見受けられるんですよね。
あと……布団にですね、えー……体液のようなものもありまして。ものを漁るというより、恨みとか粘着的な動機ではないかと思っているんですよね」

その言葉だけで色々なことを悟り、カッと頭に血が上る。

強盗にしても、一目で金目のものがないとわかる住まいだ。わざわざこのアパートを狙うだろうか。
決めつけは良くないが、やはり隣の男が犯人なのではと勘繰った。