(わたしもずっと好きでした。顔合わせの前からずっと。今までも、これからも愛するのはあなただけ)

そんな風に返事を出来たらいいのに。
言ってしまおうか。

気を抜いたら嬉しさでむせび泣きそうで、唇を噛んで耐えた。
目を合わせることが出来ず、俯く。

「気持ちは嬉しいです。でも、お応えすることは出来ません」

声が震えるのを誤魔化したら口調が堅くなった。
きっぱりと断ろう。
もう愛してなどいない。そんな態度を見せないと。

「歩那の父親を……忘れられない? その男はいまは君の側に居ないじゃないか。それなのにまだ……愛しているの?」

「ごめんなさい。本当に、本当に感謝しているんです。でも、どうしても――――」

拒むのが辛い。
どうしてこんな心にもないことを言って、大好きな人を傷つけないといけないのか。

(もし、お姉ちゃんが生きていたら、わたしは昴さんと――……)

たらればを考えてしまい、ぶんぶんと首を振ってその考えを吹き飛ばす。

駄目だ。
なんて酷いことを考えてしまったのだろう。
その気持ちだけはもってはいけない。
歩那に申し訳なくなった。

だって、歩那を育てると決めたのだ。この赤ん坊を不幸にはさせないと誓った。
深呼吸をし改めて気持ちを入れ替えると、顔を上げる。

「花蓮……」

「昴さん。っほ、本当に、お世話に……」

震える声でけじめを付けようとしたとき、花蓮のスマートフォンが呼び出された。

タイミング悪く、高めた気合いが急降下する。
言葉を切って呼び出しが切れるのを待っていたが、ずいぶんと長く鳴っていた。

切れてもまたすぐにかけ直してくる。
知らない番号だ。

「緊急かも。出た方がいいよ」

昴に勧められ、通話に出る。

『もしもし、早間さんのお電話でよろしいでしょうか。こちら……』

相手はアパートを借りた不動産屋だった。

「はい、そうですけど……」

一体なんの用だろう。