花蓮は温かい家庭を夢見ていた。
贅沢はしなくていい。笑顔溢れる家庭で過ごしたいと。

家で過ごすのがつらいと大泣きしたあの日。落ち着いてから、恥ずかし気に話してくれたことを覚えている。
早間の家は殺伐としていた。姉とは仲が良いが、両親とは当たり障りのない関係だとも。

だからこそ、その夢を一緒に叶えたくて、昴は仕事を我武者羅にがんばったのだ。

(その相手は、俺じゃだめだったのか?)

今からでは、遅いだろうか。
どんな事情かはわからないが、花蓮は結婚もしていなく、これからも頼る予定はない。

――――だったら、

(俺が歩那の父親になる未来も、あってもいいんじゃないか?)

花蓮と歩那の三人での幸せな家庭を想像する。
腕から伝わる温もりに、僅かな可能性を見出した。

実現できるかもという野心に支配され、なにがなんでも花蓮を手に入れようと気持ちが逸った。