ほかの男の子供だという複雑な感情はゼロではない。
腹が煮えくり返るような嫉妬もあるが、それでも花蓮の子供というだけで愛らしいのだ。

体温が高くて、想像よりずっしりとする。
体は意外としっかりしていて、赤ん坊というより幼児という感じがした。
体重は何キロなんだっけ?
もちもちとして抱き心地がいい。

間近に見ると、鼻筋が通っているところが花蓮によく似ていた。
花蓮に教わりながら、見よう見まねで膝を使って軽くゆらし、リズムよく優しく背中を叩く。

「昴さん、上手です。歩那も気持ちよさそう。体も大きいし力があるから安定するのかな」

「そう? でもあやすのって、けっこう体力使うんだね」

立ちっぱなしで抱っこするというのは思いのほか重労働のようだ。
明日あたり、膝上が筋肉痛になっていそうだ。

「重いでしょう?」

「ああ、でも心地いい重みだな……可愛い。睫毛が長いのは花蓮譲りなのかな」

眠りが浅いのか、瞼のうらで目が動いている。ぴくぴくとする睫毛と少しだけ開いた口。
尖った上唇に触れたくてたまらなくなった。

少しずつ眠りが深くなる歩那の顔をふたりでじっと見ていると、ふいに花蓮が涙ぐんだ。

「花蓮?」

「あ、ごめんなさい」

花蓮はすぐに涙をぬぐう。

「どうしたの? 嫌な事思い出した?」

「違うの……違うんです。すみません」

理由を聞いても、なんでもないというだけだった。叶わない夢を見てしまっただけだと。
歩那の父親を思いだしたのかも知れない。

本来なら、三人で幸せな生活をしたかっただろう。
幸せいっぱいだった気持ちが、急にしぼんだ。