「ふええ」

本格的に泣きださないように、慌ててお腹をぽんぽんとたたく。

「よしよし。いいこいいこ」

囁きながら抱きしめる。

「ママはここですよ」

すると、むにゃむにゃと口を動かし花蓮の胸をまさぐりながらすぐに寝入った。

「おっぱい飲みたかったのかなぁ……ごめんね」

尖った上唇をつつく。あひる口が可愛い。
花蓮は母乳がでないため歩那はミルクで育てた。

飲ませてあげたい気持ちは大いにあったが、産んでいないため出ないのだ。こればかりは努力でどうにかできるものではないのだが、恋しそうに胸を触られると複雑な気持ちになる。

定期健診をしてくれた助産師は、ミルクだけで育てる人はたくさんいるのだから気にしなくて良いと言ってくれたが、実の母親ではないという事実が、些細なことでも引け目を感じたり不安になったりさせている気がした。

歩那と暮らし始めて一年半。
粗末な食事、天井の低い部屋や、ぺったんこの布団にも慣れたものだ。

毎日が辛いわけではない。気丈に生きると決めて、家をでたのだ。
ゆかりが遺した歩那を守る。
それが花蓮の使命だ。

それでも、なぜ今夜はこんなにも寂しいと感じるのだろう。

「久しぶりに昴さんの夢を見たからかな……」

懐かしい彼は、夢の中ではとても甘く、ずっと微笑んでいた。