昴の唇が開く。
きっとプロポーズだ。

前のめりにその言葉を待つが、昴の声が一向に届かない。

「――――」

口は動いているのに、オルゴールの音が邪魔をする。
音楽は次第にズンズンという大きな音となった。
昴は気付かないのか、ずっと笑顔で話している。

「昴さん!」

気が付くと音楽はとどろきにかわっていた。足元で雷がなっていた。

「昴さん、聞こえないです!」

花蓮は大きな声をだすが、それも昴には届いていないようだった。

「愛しています! わたしもあなたとずっと一緒に――……‼」

そこで視界は真っ暗になった。


花蓮はぼんやりと目をあける。
低い天井を視界に入れると「夢か……」と呟いた。
眠い目を擦り時計を確かめると、朝というには少し早い四時。
隣の部屋から、ズンズンと低音の音楽が聞こえていた。

布団を床に直に敷いているため、音が床を伝い体にも響いているようだ。
騒音というほど大きな音ではないが、眠りが浅い花蓮は起きてしまった。壁も薄く防音もよくないアパートだから、隣室の音が聞こえることなどしょっちゅうだ。

となりに住んでいるのは、確か二十代くらいの男ではなかったか。
日々の寝不足の中起こされてしまったのは辛いが、こちらも散々、夜泣きで迷惑をかけていただろうからお互い様だろう。

気にしないようにして、せめてあと二時間は寝ようと目を瞑ったところで、くっついて寝ていた歩那(あゆな)がぐずりだした。