わかっている。わかってはいるけれど、彼女に会えるかも知れないと思うと一秒でも長く留まっていたかった。

やっと居場所を探し当てた。

花蓮を探そうと思うまで長い間燻っていたため、行動に移すのが随分と遅くなってしまっている。

ずっと後悔していた。
かならず自分のものになると信じて疑っていなかったのだ。

(ーーーー花蓮……)

アパートを眺め、いつ現れるのかとソワソワした。
電話番号もかえ、何も言わず忽然と姿を消してしまった彼女は、これまでどうしていたのだろう。

花蓮は枝垂れる長い睫毛の奥に、黒曜石のような瞳をもつ美人だ。

派手な顔ではないが、着飾っていなくとも清潔感があり、学生のころから密かに気持ちを寄せる男達を何人も見てきた。
そんな好意には一切気がつかず、自分が地味でモテないと思い込んでいるタイプであった。

凜とした横顔が振り向き自分を見たとき、目尻が垂れ、ゆるりと頬が緩む。

昴がいつもドキリとさせられる瞬間だった。

性格は、普段は多くを主張するタイプではないが、ここぞと言うときに意思がしっかりしているところが好きだった。

気恥ずかしくてはっきりと伝えたことはないが、彼女を愛していた。
親同士が決めたとは言え、人生を共にする相手は花蓮しか考えられない。

だから実のところ昴は、花蓮以外と付き合ったことがない。