エレベーターでむにゃむにゃと目を覚ました歩那は窓に張り付いて外を眺めている。
目下に輝くネオンと豪華な部屋を見回してそわそわとする。

思えば家族で外食や旅行など機会がなかったから、外泊の経験が殆どない。

「こんな素敵なお部屋……いいんですか」

「実は今日は特別なんだ。なんの日かわかる?」

言われてすぐにピンとこない花蓮はしばらく考える。

「三人のお誕生日でもないし……なんでしょう? すみません。なんでしたっけ」

大切な日を忘れているようだが、まったく思い出せない。

「今日はプロポーズ記念。明日は結婚記念日かな」

昴は照れくさそうに言った。

「え……」

「改めて正式に申し込むよ。花蓮、俺と結婚してください。一生大切にする。幸せになろう」

昴は跪き、部屋に隠しておいた花束と指輪を差し出した。
予想していなかった展開に、花蓮は棒立ちのまま呆然とする。

瞬きをしたら、ぽろりと涙が零れた。

「返事をもらえる?」

焦れた昴が顔を覗く。

「はい……はい。昴さんが大好き。お嫁さんにしてください」

受け取った花束で泣き顔を隠す。
すると昴が指輪を嵌めてくれた。

昴はスーツのポケットから折りたたんだ紙を取り出し広げる。
それは婚姻届けだった。花蓮の記入する箇所以外はすでに埋まっていた。

「保証人は俺の両親に頼んだ。よかったかな」

「もちろんです。ありがとうございます」

「色々、落ち着いてきただろ? もう一日も待ちたくなくて、今日にさせてもらった。明日、一緒に提出に行ってくれる?」

「ええ、お願いします」

急に色んな現実が押し寄せてきて驚いているが、ずっと夢見ていた昴の花嫁にやっとなることができるのだ。

「うー、おはにゃちょーらいっ」

足元で歩那がバンザイをしている。

「お花ほしいの?」

「ちょーらいっ」

「歩那にはこれだよ」

昴は今度は真っ白なうさぎのぬいぐるみを棚から取り出した。

「歩那を愛しているよ。俺を、君のパパにしてください」

目線を合わせてぬいぐるみを差し出すと、歩那は自分と大きさが変わらないうさぎに大はしゃぎで抱きついた。

「ぱっぱ!」

「これはOKってことでいいかな?」

「歩那もパパが大好きだよね?」

「ぱっぱちゅき!」

元気な返事に顔を見合せて笑った。