受話器からと同時に生の音声が耳に届く。

『昴さん発見』
「ぱーっぱ!」

ばっと振り向くと、改札からこちらへ歩いてくる花蓮が見えた。ベビーカーに乗った歩那が叫んでバンザイをしていた。
いつも離さないぬいぐるみも一緒に乗っていて、微笑ましいと思った次の瞬間、はっとして瞬時に肝が冷えた。

(まずい‼)

「っ花蓮!」

香がいる。
こちらへ来るなと言いたかった。

大きな声をだせず、制止するすべがなくて慌てる。

香の存在に気が付いていない花蓮は、昴の様子にきょとんと首を傾けた。
それでも何かを察したのか、足を止める。

視線を彷徨わせ、香の存在に気が付き顔を青くする。

「ぱーっぱ! ぱーっぱ!」

歩那の大きな声に、香がそちらを振り向いてしまった。

「花蓮……あなた、こんなところで何をしているの」

「っお、お母さん……」

香は花蓮と子供を見て、次に昴を見る。

歩那が呼んだ相手が昴だと気がついたのだろう。
久しぶりにあった娘に向ける目ではない。憎悪に染まっていた。