「怒ってるよ。すぐに気づいてやれず、花蓮をこんなにも悩ませていた自分にね。
ゆかりさんのことは残念だ。辛いときに力になれなくてわるかった。
でもね、歩那が花蓮の実の子供でないことは、俺にはなんのマイナスにもならないよ。
むしろ君が、他に愛した男がいなかったということのほうが衝撃だ」

邪だとは思うが、花蓮が誰の物でもないという真実のほうが大事だった。
愛する男がいて、その男のために自己を犠牲にしていると思ったときは腸が煮えくりかえる思いだったが……。

(どうも男慣れしていないと思った)

抱きしめてもキスをしても、あたかも初めてのような態度をする。

「花蓮はずっと俺を愛してくれいた。そうだね?」

「間違っていません……でも、わたしたちが会っていることを知られたら、桜杜が被害を受けます。昴さんの気持ちはとてもうれしいです。けれど、これ以上一緒にいるわけには――」

「真剣な時にごめんね。ちょっと黙って……」

逸る気持ちを抑えきれずに、話を遮る。

真剣に会社のことを考えてくれている彼女に対して、昴ばかりが獣のようだ。
――ただ、真実をしったからこそ本能に抗えない。

「花蓮は、男を知らないね?」

「――は……」

「キスも俺が初めてだっただろう」

途端に顔を赤らめる。

「え、な、なんで今そんなこと……」

慌てふためく花蓮に確信が強まる。

「君はまだ、誰のものにもなっていない」

「あ、あの、その……けっ……経験は、ないですけど……」

蚊の鳴くような声で答えた。
花蓮にとっては突拍子もない質問かもしれないが、昴にはすべてが繋がっていた。

「俺たちは両思いだ。花蓮が俺を愛してくれているなら、何も恐れるものなんてない。会社を思って身を引くなんて許さないよ。絶対に離すもんか。早間の妨害? そんなもの、どうとでもして見せる」

ごくりと喉をならし、手を伸ばす。
自分たちを阻む障害が仕事だけなら、遠慮などする必要はない。

「すべての雑音から君を守る。花蓮と結婚したくて今まで頑張ってきた。誰よりも大切に思っている自信があるし、誰よりも幸せにできると確信している。そう簡単に潰されるものか! だから……俺を信じて、俺のものになってくれ」

「す、昴さん?」

顔を上げた花蓮の唇を強引に奪い、そのままソファに押し倒した。