「え、あ、そうでした。申しわけありません。大変失礼をしました」
平井ははっとして、慌てて頭をさげる。
預かっている子供の家庭は様々な形態があり、すべてを把握して言い回しを気をつけるだなんて大変だろう。
昴は父親ではないが、送迎を毎日している保護者ではある。
曖昧な関係のままでいるから、先生達にも気を遣わせてしまっていたみたいだ。
「いえいえ、こちらこそ、なんだかすみません……」
親でも彼氏でもなく、上手く説明出来ない関係なのは花蓮が原因だ。
気まずい雰囲気をとりあえず謝った。
昴を横目で見ると、ちょうど昴もこちらを向き目が合った。
片眉を下げた、自信なさげな笑顔に胸がじくじくとし、そんな表情をみるたびに自分はどうしたらいいのかわからなくなる。
「えっと……」
咄嗟に言葉がでなくて、瞼を伏せる。
謝るのも変だ。
すると、昴の指が伸びてきて睫毛をそっと掬った。
びっくりして視線を上げると、その手は頬に降りてくる。
「気にすることないよ」
さらりと撫でる手は温かい。花蓮も歩那もこの手を失ってしまうのだと思うと縋りつきたくなった。
昴は切なげな表情なのにとてもきれいで、場違いにも見とれた。先生達もその柔らかい笑みに頬を赤らめる。
「それでは、楽しんでくださいね」
先生達が何度も申しわけ無さそうに頭をさげながら、そそくさと立ち上がる。
その時、歩那が声を上げた。
「ぱぁー。ぱっぱ! どーじょ?」
歩那が手に持っていたビスケットを昴に差し出した。
食べかけで、涎でびちょびちょにふやけていて、のこりは三分の一程度。
昴と花蓮は同時に息を飲んだ。
「歩那」
昴は目を見開き、瞳を揺らす。戸惑いが伝わってきた。
「歩那……」
「ぱんぱ。おぅじょ!」
パパ、どうぞ。
きっとそう言っている。
(―――どうしよう)
嬉しいと苦しいがごちゃまぜになった。
昴がなかなか受け取らないので、歩那は椅子から立ち上がり口に押し付ける。
「あー……、うん。ありがとう。いただきます」
口に含むと、「しい、しい」と言いながら昴の膝の上に移動する。
「そうだね。すごく美味しい」
昴は小さな歩那に顔を埋めて抱きしめた。
声が微かに震えていて、泣いているのかと思った。
先生たちが次の家族に挨拶に移ると、昴は花蓮にだけ聞こえるように言った。
「今だけでいい、パパでいさせて」
「昴さん……」
「この子を愛しているんだ。その気持ちは誰にも負けない」
「はい……」
その言葉はまるで、プロポーズをされた時のように胸を打って、眩暈がした。
平井ははっとして、慌てて頭をさげる。
預かっている子供の家庭は様々な形態があり、すべてを把握して言い回しを気をつけるだなんて大変だろう。
昴は父親ではないが、送迎を毎日している保護者ではある。
曖昧な関係のままでいるから、先生達にも気を遣わせてしまっていたみたいだ。
「いえいえ、こちらこそ、なんだかすみません……」
親でも彼氏でもなく、上手く説明出来ない関係なのは花蓮が原因だ。
気まずい雰囲気をとりあえず謝った。
昴を横目で見ると、ちょうど昴もこちらを向き目が合った。
片眉を下げた、自信なさげな笑顔に胸がじくじくとし、そんな表情をみるたびに自分はどうしたらいいのかわからなくなる。
「えっと……」
咄嗟に言葉がでなくて、瞼を伏せる。
謝るのも変だ。
すると、昴の指が伸びてきて睫毛をそっと掬った。
びっくりして視線を上げると、その手は頬に降りてくる。
「気にすることないよ」
さらりと撫でる手は温かい。花蓮も歩那もこの手を失ってしまうのだと思うと縋りつきたくなった。
昴は切なげな表情なのにとてもきれいで、場違いにも見とれた。先生達もその柔らかい笑みに頬を赤らめる。
「それでは、楽しんでくださいね」
先生達が何度も申しわけ無さそうに頭をさげながら、そそくさと立ち上がる。
その時、歩那が声を上げた。
「ぱぁー。ぱっぱ! どーじょ?」
歩那が手に持っていたビスケットを昴に差し出した。
食べかけで、涎でびちょびちょにふやけていて、のこりは三分の一程度。
昴と花蓮は同時に息を飲んだ。
「歩那」
昴は目を見開き、瞳を揺らす。戸惑いが伝わってきた。
「歩那……」
「ぱんぱ。おぅじょ!」
パパ、どうぞ。
きっとそう言っている。
(―――どうしよう)
嬉しいと苦しいがごちゃまぜになった。
昴がなかなか受け取らないので、歩那は椅子から立ち上がり口に押し付ける。
「あー……、うん。ありがとう。いただきます」
口に含むと、「しい、しい」と言いながら昴の膝の上に移動する。
「そうだね。すごく美味しい」
昴は小さな歩那に顔を埋めて抱きしめた。
声が微かに震えていて、泣いているのかと思った。
先生たちが次の家族に挨拶に移ると、昴は花蓮にだけ聞こえるように言った。
「今だけでいい、パパでいさせて」
「昴さん……」
「この子を愛しているんだ。その気持ちは誰にも負けない」
「はい……」
その言葉はまるで、プロポーズをされた時のように胸を打って、眩暈がした。