無事に最終プレゼンを終えることができ、両者のプロジェクトメンバーがほっとしたところで、昴は香に呼び止められた。

「昴さんこうしてお話するのはお久しぶりね」

「ええ、なかなかお会いする機会がなく失礼をしておりました。最近はいかがですか。お忙しく過ごしてらっしゃるようで」

本当は顔を合わせる機会など、いくらでもある。打ち合わせに参加しないから会わないのだと、胸の内で悪態をつく。

「大して忙しくはないわ。わたしのことよりあなたの話を聞きたいの。相賀さんのお嬢さんとついにお話が進展したらしいわね」

冴子の名前がでてきて、よくも娘と婚約解消した男にそんな話題を振れるな、と呆れる。
結局、会社の利益になるかどうかでしか見ていないのだろう。所詮自分も、早間の駒でしかないということだ。

近年の桜杜の成績は右肩上がりで、そこで相賀コーポレーションと関係を結べば、さらに事業の多角化ができる。それを丸ごと取り込みたいという思惑は見えていた。

花蓮と婚約解消後も取引を続けられたのは、そういった利益が見込めたからであるが、昴は胸糞悪くて喜べるはずがない。
こちらから手を切ってやりたくて無心で頑張ったのに、金の匂いがすると思われ、尚更がんじがらめになりそうだ。

冴子に関しては、関係各所からことあるごとに薦められ、のらりくらりとかわしてきたが、とうとう先日、業を煮やした冴子の両親に、食事会の開催を知らされたところだった。

有無を言わさず、日程だけ通知してくるという強行っぷりである。
困ったが、しっかりと話をするいい機会かもしれないと思った。
参加することにし、そこで冴子との縁談に区切りをつけれるように話を付けるつもりだ。

「冴子は幼馴染ですよ。そういった相手ではありません」

「あら、冴子さんはそうでもなさそうよ。あれほど条件のいいお嬢さんなのだから、わがままを言わずにお家の為には、早くしたほうがいいんじゃなくて。それに、個人の感情だけで決められる立場じゃないでしょう」

そうであっても、早間の為に動かなくてはいけないいわれはない。他人の家の事情にまで口を出すのはマナー違反だ。
咄嗟にムッとした気持ちをひた隠しにし、会話を続ける。

「ありがとうございます。まだ、花蓮さんとご縁がなくなって間もないこともありますし、ゆっくりと気持ちを落ち着かせているところです。焦らずに進めていきたいと思っています」

横で聞いていた但馬が目を見張る。
花蓮の名前を出すのは少々攻めすぎかと思うが、どう思っているのか探りをいれたい意図があった。

途端に香が機嫌悪そうになる。

「どうしたんです? 急に。あの子の話はとっくに過去でしょう」