「今 私の願い事がかなうならば 翼が欲しい
この背中に鳥のように 白い翼付けてください
この大空に翼広げ 飛んで行きたいよ
悲しみのない自由な空へ 翼はためかせ行きたい・・・」

歌いながら歩道橋を歩いているとふっと青年が現れる

「!?あ…あなたは誰?」

不思議な顔をしている少女とは裏腹に少年は嬉しそうに

「僕は天使の木多勇之介(きたゆうのすけ)って言うんだ!そんなに吃驚しないでよ。君が僕を呼んだのだから・・・」

ウインクしながら無邪気な顔の勇之介に彼女はきょとんとした顔で

「私が・・・貴方を?」

「そうだよ。気が付いてなかったの?」

「うん全然・・・」

「そっか・・・」

あっさり答える少女に勇之介はしゅんと落ち込むと少女は焦りながら誤魔化す様に

「そんなに落ち込まないでよ。私は聖野架鶴夜(せいやかずよ)だよ」

「聖夜ちゃんだね。宜しく。」

すっと優しく手を差し伸べる勇之介

「架鶴夜で良いよ」

恐る恐る手を握る架鶴夜の恐怖心を振り払うかのようににこっと微笑み

「じゃあまた会おうね」

そう手を振ると颯爽と走って去る。手を振りながら勇之介が消えるのを見送る

「うん?また会おうね?」

架鶴夜は不思議に思いゆっくり手を下ろすが深く考えずに

「まっいっか・・・」

歩道橋の上でくるっと回ると家に帰る。



高校の校門前には沢山の生徒が入って行く。
架鶴夜は勇之介の姿を探すがその姿は無い。

「いるわけないっか」

そう呟くと溜め息を一つ落とし重たい足取りで下駄箱に向かう。
架鶴夜が上履きを取り出し履くと何故か履いた靴を脱ぐと裏に付いた画鋲を取り外す。
全てを取り除くと教室のロッカーの上にいつも置いてある画鋲入れに画鋲を入れる。
彼女は席に行くと真ん中には花の入った花瓶が置いてある。
架鶴夜はいつもの日課のように鞄を置き花と花瓶を持って廊下にある水道で綺麗に洗いロッカーに置く。
架鶴夜の机の中やロッカーはいつも空で机の横に体育館シューズとリコーダーがかかってるだけだった。