あれほど幸福な夜を女性と過ごしたことはなかった。

 昨晩は、まさに我を忘れたと言っていい。
 まるで獣にでもなったかのように、彼女を強欲に求めてしまった。

 美良をどうしようもなく愛している。
 頭の先から足の先にいたるまで彼女を愛おしく感じて、改めて思い知った。

 そしてそれゆえに、苦しみが増した。

 姉を見殺しにしてしまった俺に、人を愛する資格なんてない。
 たった一人の肉親がずっと苦しんでいたことにも気付かず、自分の夢ばかり追いかけていた冷酷な人間に、人を愛する権利など与えられるはずあろうか。

 現に今朝、俺は彼女を傷つけた。
 初めての夜を迎えた朝に、あんな酷い拒絶をするなんて。

 美良は俺に失望したに違いない。

 こうして時間に遅れているのも、もう俺の妻としての役割をこなすことに嫌気が差したからかもしれない。
 式後にしたい話とは、もしかしたら別れ話かもしれない……。