「あの、ずいぶん遠いんですね」
「……」

 おずおずと紗英子さんに話しかけるけれども、彼女は黙って歩き続ける。
 少しした人気のない所で、ようやく立ち止まった。

「ここよ」

 と指さしたのは重々しそうな扉だった。

 こんなところ?

 訝しく思って、入る気がしない。

「さぁもう時間がないわ。先生もお待ちかねよ」

 けれどもそう言われ、なかば強引に手を引かれれば抵抗のしようがない。

 取り合えず、覗くだけしてみよう。

 そう思って、そっと扉を開けた瞬間――どん、と背中を乱暴に押されて、私は床に崩れた。

 中は暗かった。
 控室なんかじゃない。

 騙された――!?