運命の人と笑える日々を

気付けば私はまた下唇を噛んでいた。

数時間前まで一緒にいた母を思い出したからなのか。

それとも自分の言動に後悔しているからなのか。

自分の事なのに、わからない。

でも――わかりたくもない。


「……わっ!」

「っ?!?!」


驚いて声にならない声を上げる。

そして犯人であろう音昏くんを凝視する。


「ふふっ」


音昏くんの笑い方は、まるで悪戯が成功した猫のようだ。

思わず肩の力を抜いた。

音昏くんはそっと自分の唇に人差し指を当てる。


「傷が付いたら、どうするの?」


白い息が音昏くんを少しづつ隠す。

さっきは気にならなかったのに、今は邪魔だと感じる。


「うちに来る?」

「……え?」


私はまた音昏くんを凝視する。

今、音昏くんなんて言った……?


「行く当て、ある?」

「な、ない、です……」

「なら、うちにおいでよ」