そんな母親に父親は愛想をつかし、家を出ていった。


『ごめんな、詩月』


なんで謝るの?

謝るなら私も連れてってよ。

置いて、いかないでよ。

父親にはそんなことばかり思っていた。

友達は0、家族は父親が家出して母親だけ。

私の"感情"と"意思"は、もうすでに逃げ場をなくしていた。

それでも我慢していた。

ちゃんと、頑張っていた。

でも、私の体は、心は、もう限界だったのかもしれない。

いつものようにかけられる言葉に対して、私は思っていたことを口にしてしまった。


「……じゃない」

「詩月?」

「私のためとか言っといて、結局は自分のためじゃない!! 私はお母さんの代わりでも、人形でもない!!」

「……そう。詩月はそう思っていたのね」

「っ……!」


思わず肩が上がる。

母の声は聞いたこともないくらいとても低い声だった。