気がついたのは、すーっと背筋を冷たい風が駆け抜けた。

 ゆっくりまぶたを押し上げると、目の辺りはなんだかじんじんと腫れ上がってるのが自分でもわかった。



「え~、そうなの~?」


 おかしそうな凛子さんの笑い声が聞こえた。

誰かと話してるのかな、なんて思ってたら、聞き覚えのある声が続けられた。


「この前のお祭りだって、すぐ迷いそうになるし」


 まさか、っていう信じられない気持ちがすぐにあたしを支配した。

そういってケラケラと笑うのは…。


「…太一さん?」


 ぼんやりとした視界から覚めるため、目をこすった。

泣きすぎたせいか頭の中がくらくらする。


 むくりと起き上がると、もう薄紫に染まりかけた空があたしたちを包んでいた。


「おはよう、チビ助」

 くしゃりと髪を撫でられた。

その大きな手が、ちょっとだけ冷たくなっていた。

「もう大丈夫?」

 凛子さんに顔を覗かれた。

寝てしまっていたことに気づいて、すこし恥ずかしくなった。


「ご、ごめんなさい、凛子さん!」

 ぱっと離れて、体をくの字にして頭を下げた。


 凛子さんはすくっと立ち上がると、あたしの前にひざまずいて両腕を優しくつかんでくれた。