お母さんもお父さんを好きになったとき、こんな思いをしたの?


 聞いたってきっと返ってこない答え。

 でも、あたしの頭をぐるぐるさせるには十分だ。



「嫌なことがあったときはね、笑うのよ?」


 流れる歌のような声に反応して顔を上げた。

そこにはあったかい凛子さんの微笑み。


「わ…らう?」

「そう。それから考えるの、なんで嫌だったんだろうって」


 凛子さんは、まるで風が吹くのがわかっているかのように天を仰いだ。

 ふわっと髪が揺れて、どこかの絵の一枚のように感じてた。


 あたし、嫌だったのかな?

 …なにが、嫌?



 思い出すオレンジ色とすこし暗い店内。

いつものあたしの席に重なる人影。


 そこはあたしの『場所』なのに。

 大切な『場所』がとられちゃったんだ。



 それが悔しくて…、嫌なんだ。