カラン…、

 音が鳴り響いたのは、オレもさっき入ってきたこの店の扉。


そして、誰かが入ってきた証拠。



 逆光でうっすらと浮かび上がる人影を、透き通ったサトの向こうに見える。


「…太一さん?」

 息を飲み込んでこちらを見ていたのは、チビ助だ。


 後ずさりして、オレは自然と袖で口をぬぐっていた。

サトも気づいたように後ろに振り返る。



 一瞬のことなのに、ものすごく長い時間に感じてた。


 ゆっくりチビ助は足の向き変えて、来た道とは反対に駆け出していった。


 橙色の光に照らし出されたのは、チビ助の目元を煌めかせた涙。



 オレは、あんな顔をさせたいんじゃない。


「太一!」

 自然と走り出そうとしたけど、直後腕をつかまれた。


「…悪い、サト」


 ぶわっとにじみ出るサトの瞳から逃げるように、オレは振り切って走り出す。


 なにがどうなっているのかわかんない。

 どうしてこうなってしまったのかさえ。



 なんで、オレはチビ助を追いかけているんだろう?