あたしってば、もう足音だけでわかるようになっちゃったのかな?

それだけで嬉しくて仕方ない。


 店内に入ってきた太一さんは明かりを消したり、火の元のチェックをしていた。



「…っくしゅん!」


 冷たい空気が背中を通った気がして、くしゃみをしてしまった。


ちょうど奥から戻ってきた太一さんはびっくりしてた。


「あ、すみませんっ」

 半袖の両腕をさすって温めて、あたしは小さなポシェットを肩にかけた。


 ごまかすように笑ってみたけど、女の子としては目の前でみられたら恥ずかしくて仕方ない。


 もう一度奥に戻る太一さんを見送って、あたしは扉の隣の窓ガラスから外を覗いた。


小さな子が両親と手をつなぎながら、商店街に楽しそうに向かってた。

あたしのお父さんは今日も仕事。

でも「楽しんでおいで」って笑って見送ってくれた。


だって太一さんがいるならあたしには百万馬力だもん。


 そんなことを考えていたら、肩からふわりといつもの温かい香りがあたしを包んだ。

「着てろよ」

 暗い店内に太一さんの声が響く。

すぐ後ろにまで来ていて、いつもお店で着ている薄い水色のシャツをかけてくれていた。


「…ありがとうございます!」

 シャツに袖を通せば、太一さんの香り。

嬉しいはずなのに、胸が苦しかった。