フォーチュンクッキー

 残念そうな言葉を口にした声の主は、ゆらり、と照明を浴びるように姿を現す。


「……制服、似合ってんじゃん」


 歩くたびに揺れる、深いコーヒー色の柔らかな髪。

どんな熱湯よりも早く、あたしを溶かすほどのビターな声。



「…太一さん……」


 鼻の奥をくすぐる苦い香りの中に、あたしの大切な人がいた。


「ど……して…」

 指に力も入らず、ただただ驚くだけしかできなかった。

これは現実なのか、それとも『会いたい』と強く思ってしまった幻想なのか。


「お前の幼馴染、すっげえシツコイからさ」


 幼馴染──杏ちゃん?それとも雛太?


 ううん、そんなことよりも。

太一さんは今ごろ、高層ビルに囲まれて、慣れない言葉も駆使して平然と生活してるに違いない。


 そう、思ってた。


 声の出し方すらも忘れてしまったように、あたしはひたすら目の前に居る姿の真理を自分に問い質す。


 カウンターに、肩幅よりも広く両手をついて体重を乗せた太一さんは、口端を吊り上げた。


「教え忘れたことがあって」


 それは見たことのある……“先生”の顔だった。